チャプター 8
メープル・グローヴのダイニングルームでは、クリスタルのシャンデリアがマホガニーの壁にあたたかな光を落とし、その輝きは、何世代にもわたってハーディング家の晩餐を飾ってきた純銀の食器の上で静かにきらめいていた。金箔の額縁に収められた厳めしい顔つきの先祖たちの油彩画が高みから見下ろし、その視線は、グレースの隣に指定された席へと腰を下ろす私の一挙手一投足を追っているように思えた。
私は首元の詰まったブラウスをそっと直し、ヘンリーが残した痣がきちんと隠れていることを確かめた。彼に目を向けたとき、指先はわずかに震えていたが、表情は崩さなかった。仮面をかぶる術なら、五年のあいだに嫌というほど身につけていた。
向かいにはビリーが座っていた。幼い顔をきりりと引き締め、ウィリアムの完璧な姿勢を懸命にまねている。その姿に、胸が痛むほどの愛しさが込み上げる。みんなが望むとおりの子になろうと、こんなにも必死な小さな男の子。ふと彼がこちらを見て、すばやく微笑んだ。私も微笑み返し、それから視線を空の皿へと落とした。
「イザベラ」と、グレースが不意に言った。「あなたとヘンリーは、本当に結ばれるべくして結ばれたふたりだわ。まるでおとぎ話みたいに!」
私は水の入ったグラスから目を離さなかった。クリスタルの表面に浮かぶ水滴が、ひと粒ずつ結ばれていくのを見つめる。ヘンリーの書斎にある離婚届が、時限爆弾のように頭の中でかちり、かちりと音を立てていた。
「ありがとう、グレース」イザベラの声は蜜のように甘かった。「優しすぎるわ」
「本当のことを言ってるだけよ!」グレースの声には、勝ち誇った響きが混じっていた。「毎日でも夕食に来るべきだわ。ヘンリーったら、あなたがいるときしか笑わないんだから」
イザベラは慎ましやかに目を伏せた。「グレース、家族の時間に割り込みたくはないわ」
「家族の時間?」グレースは笑った。その音は、ガラスが砕けるように鋭かった。「あら、イザベラ。ここにいる誰かより、あなたのほうがずっと家族みたいなものじゃない」その目が意味ありげに私のほうへ滑る。「昔は毎年、祝日になるたびうちで過ごしていたでしょう? あなたとヘンリーが庭園の迷路にこっそり抜け出していたこと、覚えてる?」
「あの頃は本当に素敵だったわ」イザベラは小さくため息をつき、指先をかすめるようにヘンリーの袖へ寄せた。「でも、物事は変わってしまうものよね?」
「変わるべきじゃなかったのよ」グレースは身を乗り出して言い募った。「誰だって知ってるわ、あなたたちは完璧なふたりだったって。慈善晩餐会のたびにヘンリーがあなたを見る目ときたら、まるで特別だったし、ふたりは相手の言葉の先まで言い当ててしまうんだもの。お母さまだって、ニューヨーク社交界じゅう探しても、これ以上の組み合わせはないっておっしゃっていたわ」
キャサリンは満足げにうなずいた。「イザベラは昔から、我が家の価値観と伝統をよく理解していたもの」
「それに、あなたのヘンリーの仕事への支え方ときたら」と、グレースはますます調子づいた。「大事な会食にはすべて顔を出して、数えきれないほどの取引を後押ししてきたでしょう。そういう人こそ、本当のハーディング家の妻というものよ!」
私は細心の注意を払って無表情を保ったまま、膝の上で指を固く握りしめた。凝った花のセンターピース越しに見えるヘンリーは、そのやり取りを見つめていたが、表情からは何ひとつ読み取れなかった。
「もう、恥ずかしいわ」とイザベラは抗議してみせたが、その嬉しそうな笑みが本心を語っていた。「でも、確かにああいう実業界の晩餐会はいつも興味深かったわ。ヘンリーの見事な交渉ぶりを間近で見られるなんて、光栄だったもの」
視界の端で、ウィリアムの指がフォークを握る力を強めたのが見えた。一族の家長である彼は、何よりも慎みと口の堅さを重んじる人物だ。グレースの振る舞いは、そのどちらからもほど遠かった。
「イザベラ」とグレースは続けた。その声には、作りものの甘ったるさがべったりとまとわりついていた。「あなた、何年も本当に辛抱してきたものね。おじいさまが突然、ヘンリーを……別の人と結婚させてしまったときは、さぞ胸が張り裂ける思いだったでしょうね」
そのあとに続いた沈黙は、重たい含みを帯びていた。キャサリンは遠慮がちに咳払いをし、リチャードはスープに異様なほど強い関心を示していた。ウィリアムの表情は険しく翳ったが、彼が口を開くより早く、グレースがさらに言い募った。
「だって、あなたとヘンリーは幼なじみ同士で、ずっと想い合っていたじゃない……」
「グレース」ウィリアムの声は刃のように空気を切り裂いた。「もうよせ」
「いいえ、まだ終わってないわ!」グレースの平静はついにひび割れた。「どうして二人を引き裂かなきゃならなかったの? イザベラとヘンリーは結ばれるべきだったのに! あなたにそんなことをする権利が……」
「この家の長は私だ」ウィリアムの声は不気味なほど静かだった。「何が最善かを決めるのは……」
「誰にとっての最善?」グレースは勢いよく立ち上がり、椅子が硬い木の床を耳障りに引っかいた。「家族のため? それともあなた自身の自尊心のため? ええ、私はあなたの権威に逆らってるわ! どうしてイザベラと兄さんの幸せを壊さなきゃならなかったの?」
ウィリアムの顔からさっと血の気が引いた。彼は息をしようともがきながら、胸を押さえた。
気づくより先に、私は動いていた。「おじいさま、落ち着いてください。ヘンリー、すぐにピーターソン先生へ連絡して。お父さま、寝室まで運ぶのを手伝って。横になっていただかないと」
ヘンリーはすでに電話をかけ、鋭い口調で指示を飛ばしていた。イザベラはどうしていいかわからないまま立ち尽くし、完璧だった落ち着きが崩れかけていた。「ヘンリー、私も何か……」
「ソフィアなら大丈夫だ」ウィリアムはあえぎの合間にそう言い、私の手を強く握った。「今、冷静に考えているのは……この子だけだ……」
ちょうどウィリアムを寝室に落ち着かせたころ、ピーターソン先生が到着した。緊張の走る診察と投薬のあと、ウィリアムの顔色は幾分戻った。呼吸も安定したが、今夜の一件が彼に大きな負担をかけたことは明らかだった。
リチャードは暖炉のそばを落ち着きなく行き来し、キャサリンはイニシャル入りのハンカチで目元を押さえていた。ヘンリーは扉の近くに彫像のように立ち、その表情からは何も読み取れなかった。グレースも私たちのあとについてきていたが、さきほどまでの威勢は消え、代わりに怯えが顔をのぞかせていた。
「グレース、お前のしたことを見てみろ!」とリチャードが鋭く言った。
「お父さま……」グレースはかすれた声でつぶやいた。「私はあなたの娘よ。どうして赤の他人の肩を持って、私を見捨てるの?」
そのまま声を強め、彼女は続けた。「お父さま、あなたも見ていたでしょう! ヘンリーとイザベラがどれほどお似合いだったか。学校の行事にも、ダンスの発表会にも、いつも出ていたじゃない。二人は結ばれる運命だって、よく言っていたわ。それなのに今さら、こんなのが平気みたいな顔をしていられるの?」
リチャードは疲労と失望の入り混じった目で彼女を見た。「追って知らせるまで、自室謹慎だ。社交の場への出席は禁止、電話もだめ、面会も許さない。それから、今夜ここにいた全員に正式に謝罪しなさい」
「でも、お父さま……」
「お前も私の権威に逆らうつもりか?」リチャードの声は大きく、揺るがなかった。
グレースの顔がくしゃりと崩れた。「私より、あの人を選ぶの? 私はあなたの娘なのに!」
彼女の言葉は、答えを与えられないまま宙に残った。私はそんな彼女を見つめながら、ヘンリーとの結婚のことを思っていた。ある意味では、彼女の痛みは理解できた。私たちは二人とも、自分では選べなかった役割に閉じ込められ、勝ち目のない戦いを強いられていたのだから。
部屋の隅に置かれた柱時計が九時を打ち、その鐘の音が屋敷の中に響き渡った。ハーディング家の晩餐は混乱のうちに終わった。けれど今回は、何かが違う気がした。私はウィリアムを立ち上がらせながら、ヘンリーがこちらを見つめているのに気づいた。その表情は、私には読み取れなかった。
